認知症をかかえる家族の気持ちは同じ
親が認知症だけど私に介護できるのかな?
まず、介護をする!って力を入れないほうが良いですね
「テレビや雑誌で、認知症の家族を介護している芸能人の話を聞きますが、わたしにもできるのでしょうか」という質問をよく受けます。
まず、肩の力を抜き「介護をする」と意識せず、自然体で認知症の方と暮らせるスタンスを整えていきましょう。
これまで暮らしてきた日常の延長があるだけです。少しずつ記憶や理解ができなくなっていくだけ。
たとえば、20年ぶりに新札に代わったニュースをみて、認知症の母がお札を数十枚握ってやってきてこう言いました「今日からだから、これ、両替してきて。早くしないと使えなくなるでしょう」どうやら新札発行の初日に、両替したい人が銀行に並んだ報道を見て、早く新札に替えないと旧札は使えなくなる、と思い込んだようです。
さて、これが赤の他人なら「あらぁ、勘違いしたのねー」「まあ、テレビであんな絵を見たら一瞬焦るよね」などとくに気にもせず、訂正して安心させてあげることができます。
が、親子や身内ならどうでしょうか。つまり、この方の過去歴をよく知っている人なら、ましてこの方が教師を務めあげた人だったり、銀行マンだったりしたなら。
「えぇ?!どうしてそんな勘違いが起こるのよ」「いやだ、そんなこともわからなくなったの、今までに何度も新札が出たのにこれまではちゃんとわかってたじゃない」「あれだけしっかりしてた母(父)だったのに」
理屈ではわかっていても、感情が認められないのです。つい説明する口調がきつくなりがち・・・これが身内なのです。自分を責めることはありません。
認知症家族との暮らしを充実させるコツ
「認知症介護」と肩に力を入れる必要はありません。急変するような病気でない限り進行速度に違いはあっても、認知症は少しずつ進行していくものです。
心配せずとも、認知症の方は状態の変化をすべて見せてくれて、そのつど必要な介護の方法をちゃんと教えてくれるものです。
家族は日常生活をゆっくりその人に寄り添っていさえすれば、いつの間にか認知症介護の達人になっているものです。
心の持ちようで認知症の家族とのくらしはとても充足感をもたらし、至福感を与えてくれるものなのです。
認知症対応のポイントやテクニックは山のように書籍も出ていると思いますが、前述したようにゆっくり関わっているだけで、そのスキルは十分身についていくものです。
どれほど有能な支援者も、一緒に暮らす家族のスキルにはかないません。
介護スキルより家族の愛情
テクニックを気にしたり、専門書を読み漁る必要はありません。
心がけるのはただひとつ、気持ちの平静を保つことです。そのための方法は幾つもあるでしょうが、一にも二にも無理をして疲れないことです。疲労すると身体だけでなく気持ちが低迷していきます。すると悪循環がおき不満や厭世観を持つようになりますから、気持ちだけは意識して健全に保つことが大事です。
ひとつの場面に対して、「わあ、大変」と受け取るのか「やってくれたねー」と笑い飛ばせるのかは自分の心しだいです。
気持ちの平静は自然体から
よく、多くの書き物の中に「認知症の方には怒ってはいけない」と書かれています。たしかに認知症の方は、相手が怒っている理由は忘れたり、理解できなかったりしますが、怒っているという顔や現象だけは感覚の中で長く残り「あの人は嫌い」とか「あの人は恐い」という感情だけがインプットされてしまうからです。
ただ、これはあくまで他人や専門職に向けた話です。介護職の中では「笑いながら怒ったほうがいい」などと冗談のような話があるくらいです。
しかし家族は違います。認知症の家族と暮らすご主人が、我慢できずに妻を怒ってしまうたびに激しく自分を責め落ち込んでおられたのを見て、わたしは「どうぞご家族は怒っていいのですよ」と申し上げました。するとご主人の顔はパアッと明るくなりました。
腹が立てば喧嘩もし、怒ってもいいのです(もちろん、虐待はご法度ですが)今まで暮らしてきたように接してあげることが何よりの刺激であり、生活の健全だと思います。
家族は特別です。まして息子や娘のすること、言うことは認知症の方とはいえ、気持ちにささくれを残したりしないものです。
最後まで、泣いたり笑ったり怒ったりして楽しく暮らしていいのです。