認知症の治療に用いられる薬は、大きく以下の2つに分けられます。
- 認知機能を改善する薬(進行を遅らせる)
- 周辺症状(BPSD)を抑える薬(興奮・幻覚・うつなどの症状を緩和する)
※認知機能の障がいである、記憶障害・失語・失行・失認・見当識障害・を中核症状というのに対し、周辺症状は国際老年精神医学会で「認知症患者にしばしば生じる、知覚認識または思考内容または気分または行動の障害による症状」と定義されています。問題行動ととらえられる場合もあります。
それぞれについて、主な薬剤とその目的を紹介します。
1. 認知機能を改善する薬(進行を遅らせる)
薬剤名 | 目的・作用 | 適応症 |
ドネペジル(アリセプト) | 記憶や学習に関わるアセチルコリンを増やし、認知機能を維持・改善する | アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症 |
ガランタミン(レミニール) | アセチルコリンを増やし受容体を活性化することで記憶力を高める | 軽度~中等度のアルツハイマー型認知症 |
リバスチグミン(リバスタッチ、イクセロンパッチ) | アセチルコリン分解の酵素を阻害し、神経伝達を改善を図る | 軽度~中等度のアルツハイマー型認知症 |
メマンチン(メマリー) | 神経細胞を過剰な刺激から保護し、思考の混乱を抑えます | 中等度~重度のアルツハイマー型認知症 |
💡 ポイント
- 軽度~中等度 → 「アセチルコリンを増やす薬(ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン)」
- 中等度~重度 → 「神経細胞を守るメマンチン」
- レビー小体型認知症にはコリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル)が適応されます。
2. 周辺症状(BPSD)の問題行動を抑える薬
症状 | 薬剤名 | 目的・作用 |
興奮・暴力・攻撃性 | リスペリドン(リスパダール)、クエチアピン(セロクエル)、アリピプラゾール(エビリファイ) | 精神の安定、攻撃性の抑制(抗精神病薬) |
幻覚・妄想 | リスペリドン、クエチアピン | 幻覚や妄想を抑える(抗精神病薬) |
うつ症状・不安 | パロキセチン(パキシル)、ミルタザピン(リフレックス) | 気分の落ち込みや不安を軽減(抗うつ薬) |
不眠 | トラゾドン(デジレル)、ラメルテオン(ロゼレム) | 眠りの質を改善(睡眠導入剤) |
徘徊・興奮 | 抗精神病薬(リスペリドンなど)や漢方薬(抑肝散) | 落ち着かせる |
💡 ポイント
- BPSD(行動・心理症状)は 環境調整やリハビリ も重要になります。
- 抗精神病薬 は副作用(転倒・ふらつき)に十分な注意が必要です。
- 抑肝散(漢方薬) も興奮や幻覚に効果が期待されます。
☞専門医や支援者に相談しながら家族は介護を行いますが、それには自分が認知症薬についての知識を持っているかどうかはとても大切な意味を持ちます。
☞毎日の介護に家族は疲弊し、悩みを大きくしてしまうと、相談と悩みの愚痴との境目が分からなくなって来がちです。そのためには介護をする家族は常に気分の転換を図ることが大事になります。
まとめ
- 認知機能の改善 には 「アセチルコリンを増やす薬」や 「神経を保護する薬」が使用されます。
注釈:アセチルコリンとは中枢神経系などの神経伝達に関わる神経伝達物質で、脳では主に頭頂葉や小脳で作用します。私たちの体内で、主に神経細胞間の情報伝達を担う『神経伝達物質』として大事な役割を果たしています。 - 周辺症状(BPSD) には 「抗精神病薬」「抗うつ薬」「漢方薬」などが使用されます。
認知症の治療は 薬だけでなく、生活環境の調整やリハビリなどが 重要な課題です。
いずれにしても、専門医の指示に従い適正な治療を行う必要があります。
周辺症状は一つの症状だけでなく、幾重にも問題行動が重なる場合などが考えられるため、介護者(家族)は一人で抱え込まず、医師や身近な支援者に相談の上、最良の方法で介護負担の軽減を図りましょう。認知症の症状は急激に、あるいは少しずつ動いて変化していくものです。その時の大変さだけで介護に絶望することがありませんように心から祈ります。介護する家族の思いは同じです。
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